チクホウフォーカス

2013年〜共同ポケットの活動記録です。

「せんぷりせんじが笑った!」を巡る、誇らしきひととき

8月の最後の日曜日、チクホウフォーカス2015の関連イベントとして企画した「せんぷりせんじが笑った!」の世界を味わう、鑑賞&朗読体験会。おかげさまで予想を上回る満員御礼。これまでにない素晴らしい時間となりましたので報告いたします。
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会場は、田川市石炭・歴史博物館内の「炭鉱住宅」復元エリアの一室。
「そりゃあそうと、せんぷりせんじ?そりゃいったいなんかい?」という方も多いでしょう。
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なかなか一口には説明が難しいこの作品。
明治期からの筑豊の炭坑の歴史、労働者の暮らしぶりなどを今に伝える資料として、絵や写真、歌や映画‥いろいろな記録がある中、炭鉱を題材にした「人形劇仕立ての幻灯」というのはなかなかお目にかかれないカテゴリです。
1955年に日本炭鉱労働組合が制作したという47枚のモノクロフィルムが次々と紙芝居のように映し出されます。初めから終わりまで約20分。9人の登場人物のセリフとナレーターの言葉で構成された台本を当時は「弁士」が横につき、生上演で全国巡回していたとか。そのお話のタイトルが「せんぷりせんじが笑った!」であります。
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当時の「人形劇の幻灯」制作風景


原作者は、まさにペンを剣に、労働者のための文学運動として筑豊に根をおろし、身を削るようにしてその記録文学を発表し続けた作家、上野英信(1923~1987)です。

今回のチクホウフォーカス2015では、山本作兵衛翁の未公開作品を含む原画展がひとつの目玉ですが、作兵衛さんの絵の素晴らしさをいち早く見出し世に紹介したのも、上野英信。にも関わらず、現・作兵衛展示室には「上野英信」に関する資料がほとんどなかったこともあって、今回、新たな提案をさせていただきました。

※作兵衛展示室に新たに設置された、記録作家・上野英信の紹介パネル



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幻灯フィルムは、ご子息の上野朱さんが、遺品の中から発見し、2007年、世に紹介しました。
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DVD化にあたり、大変光栄なことに、朱さんとご縁のあった青木が、筑豊育ちのアナウンサーということで朗読を担当させていただきました。ゆふいん文化・記録映像祭をはじめ、これまで何度か朱さんの立会いのもとで上演したり、青木が単独であちこちのイベントやツアーなどで披露させていただいたりしましたが、今回のように、朱さんのお言葉による解説や、参加者と共に台本を読むなどといった体験を交えるのはまったく初めてのことでした。これは本当に意義深い時間となりました。
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2007年 ゆふいん文化・記録映画祭 の招待作品に

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2014年 アクロス福岡「炭都イマジネーションツアー報告会」にて


上野英信は、坑夫として実際に地底に働き、仲間達に請われて、版画の腕のあった同じ坑夫仲間の千田梅二と共にガリ版刷りの絵噺「せんぷりせんじが笑った!」を完成させました。苦しい労働を終えた坑夫たちが親子で寝転んで読めるようなもの、さあ、明日も頑張ろうと思えるような作品をというのが、初期の上野文学の原点です。朱さんが持ってきてくださった、わら半紙の原本やフィルムをみなさん大変興味深そうに見ておられました。
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漢方薬の「せんぷり」を一升も飲んだような苦り切った顔で、普段はにこりとも笑わない主人公の千次が
最後は子供を抱きかかえて大笑い。苦しい労働の中で勝ち取ったひとときの正義。シンプルなストーリーですが、坑内の様子、炭鉱住宅での様子、実に精巧に、背景から人形からその世界が作り込まれていて、思わず見入ってしまいます。

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千次の無事を祈る母や妻、地底の仲間たち、横暴な係員など、男女9名の登場人物の台詞=耳慣れた筑豊弁がリアルな文字表現になっている台本も新鮮。

きょうはぶっつけ本番ながら、それぞれ配役をして、参加者による「せんぷりせんじ」の世界を完成させてみようというミッションもあります。これに関しては手探りの試みで少し不安であった私に対し、朱さんの方はとても楽しみにされているようでした。

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最初、どなたかと声かけをしましたが案の定、いきなりの立候補はなかなか難しく、結局は私がえいと、その場の雰囲気で強制指名。はい、目が合いましたのでお願いします!どうしても嫌な方は目を逸らしてくださいといった具合で、行き当たりばったりながら、これがまた、後になってみればどうして、我ながら素晴らしい采配となったではありませんか。

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普段は知性溢れ、品のよいお話ぶりの朱さんに「おらーもう嫌ばい!これ以上我慢でくるか!」と啖呵を切って皆を闘いへと導く熱き男ごろちんが乗り移った!のを皮切りに、横暴な係員の怒鳴り声が妙にリアルで板についていた、舞台経験もあるという直方市役所職員さん、40年のベテラン坑夫源じぃも、まさしくそのような、物腰の柔らかそうな目の前のお爺様の声がぴたりときました。女一人でこれまで苦労し声色を変えて9人をなんとか読み分けていたつもりの私、真っ青です!!

途中、勝利を勝ち取った坑夫たちが「民族独立行動隊の歌」を合唱しながらトロッコで坑道をのぼっていく印象的なシーンでは、横の朱さんより、まず私がリードするようにと事前指導があっていましたので、ためらわず声高らかに先陣を切って大声を出したところ、みなさんがっちりとついてきた。「すすめーすすめー」と老いも若きも唱和したその歌声がやたらと感動的で鳥肌が立つ思いでした。

拍手喝采で終了。声を出した人も出していない人も一様に「連帯」の喜びに溢れていたように感じました。最後の上野朱さんのお言葉

「きょうの様子を上野英信に見せたかったです。父の作品をこのような形で感じてくださり、感動しました。父が今もしここにいたら、きっと喜んで涙していたことでしょう」

企画者としてもこんな誇らしいことは滅多にありません。
ご参加いただいた皆様、事前のイベント告知をしていただいた地元新聞社様、ご協力いただいた石炭歴史博物館様、そして上野朱さんに心からお礼申し上げます。